第1回 研究報告

『データアントレプレナージャーナル』第1回 研究報告
“Data Entrepreneur Journal” Research Reports Vo.1

人工知能を応用したデータサイエンスによるビッグデータ分析

人工知能を応用し実世界に貢献するための研究を推進しているのが,情報理工学域Ⅰ類コンピュータサイエンスプログラムの 沼尾雅之 知能情報研究室である.その幅広い研究領域を活かし,複数の企業と共同研究を行っている.研究室公開では,センサネットワークを使った技術を一般公開し人気を博している.研究報告の第1回は,沼尾雅之 先生に現在の研究についてお話を伺った.

沼尾雅之 - Masayuki NUMAO

沼尾 雅之
2008年,日本アイ・ビー・エム株式会社より電気通信大学へ着任.国内外の学会で受賞,情報処理学会委員,人工知能学会副会長などを歴任.人工知能に関する講義『知的情報処理』,『知能情報特論』科目を担当.知能情報研究を統合するプロジェクト『ODDS PROJECT』を設立.情報理工学研究科情報・ネットワーク工学専攻コンピュータサイエンスプログラム / 情報理工学域Ⅰ類コンピュータサイエンスプログラム 教授.博士(情報理工学)東京大学.

データサイエンスの総合研究

- 先生の研究の領域と特色は何でしょうか.

センサネットワークからビッグデータ解析までのエンド−エンドソリューションを構築できることを目標にした,データサイエンス関連の基礎,応用,そして新しいビジネスモデル構築まで含めた総合的な研究をしています.システム構築的な研究もありますが,一方でデータマイニング手法の基礎的な分野では,単体で論文になるような高いレベルの研究を目指しています.新しい応用を提案することで,そこから逆に基礎技術が発見されることもあり,学際的な領域ですが,相乗効果も十分あると期待しています.

高度なデータサイエンスの研究で知られる沼尾雅之教授

高度なデータサイエンスの研究で知られる 沼尾雅之 教授.

- なるほど,ソリューションを構築することを意識した研究は特徴的ですね.学生の就職実績も凄いとお聞きしています.

企業出身者ですので,実際に役に立つ研究を目指しています.学生には自分が今やっていることが,社会にどのように役に立つのかを常に考えさせるようにしています.その中で学生自身が,研究分野や研究テーマ選択に対する価値観を身につけられるようにしたいと思っています.

研究室で推進した数々の研究が学会等で受賞

研究室で推進した数々の研究が学会等で評価されている.

データサイエンスのプロジェクトを設立

- 具体的にデータサイエンスに関する取り組みは何でしょうか.

データサイエンスは,確率・統計学,機械学習,データ工学の全ての知識と技術が必要な研究分野であり,またデータサイエンティストとして活躍するためには,システム設計などのビジネスモデリングにも通じていなければいけません.私どもの研究室では,研究分野として,データサイエンス基礎,データサイエンス応用,データサイエンスビジネスの3つの柱を立てて,学生にデータサイエンスに関わっているという自覚を持って研究してもらうようにしています.

研究室にはデータサイエンスに関する幅広い論文や専門書が揃う

研究室にはデータサイエンスに関する幅広い論文や専門書が揃う.

- 先生が立ち上げられた『ODDS PROJECT』ですね.既に色々なところで話題になっています.どのようなプロセスで研究を進めるのでしょうか.

具体的には,まずセンサネットワークを構築するにあたりマイコンを使った実習から始めています.実際に温度センサや加速度センサをマイコン基盤に半田付けすることで,ハードウェアも含めたシステム全体の感触がつかめるようになります.また,データ収集,蓄積,処理のためのインフラ構築についても重視しています.データベース設計,ストリームデータ処理などのミドルウェア設計についても重要な研究テーマとしています.もちろん,データマイニングや機械学習についても,アプリケーションごとに最適なアルゴリズムを選べるような,実験・評価をしています.最後に応用システムの構築やデータの可視化,ユーザインタフェースについても研究しています.

研究室公開では,学生によるセンサネットワークをの技術公開

研究室公開では,学生によるセンサネットワークを技術公開.

- ハードウェアからソフトウェアまで一貫した仕組みを理解するのですね.確かにこれからのコンピュータサイエンスでは必要な知見ですね.

成長産業への人材育成が重要

- 電気通信大学では,2015年度より『データアントレプレナープログラム』を開始しましたが,データアントレプレナーをどのようにお考えですか.

研究室の3つ目の柱として,データサイエンスビジネスを掲げているように,データサイエンスは,現在最も新規ビジネスを提案できる成長産業だと捉えています.IoTであらゆるデータが利用可能となり,これに人工知能技術の進歩が重なったことで,計算機ネットワークが人類全体の知能を超えるSingularityという時代に突入しつつあります.人間社会は大きな転機を迎えていますが,一方,地球温暖化や高齢化社会などの様々な社会問題を解決できるチャンスでもあります.このような時代変革を大きなビジネスチャンスと捉えられるような人材を育成していくことが必要です.

女子学生も多い研究室の入口には研究室や卒業生が掲載された資料が並ぶ

女子学生も多い研究室の入口には研究室や卒業生が掲載された資料が並ぶ.

- お聞きしたように,企業においても教育機関においても必要とされる人材を育成していかなければならないですね.

センサネットワークの研究

- 特徴ある研究の事例をご紹介ください.

2つご紹介したいと思います.1つ目は,無線タグによる状態検知の研究です.RFIDと呼ばれる無線タグを衣服などに貼り付け,アンテナに繋がったセンサによって検知してその状態を人工知能の理論によって解析させています.無線タグはさらに小型軽量化されて行きますので,システムを意識することなく生活できるようになるでしょう.こうした詳細なライフログのビッグデータを解析し,環境を改善していくことで,安心安全な社会を構築することが可能となります.

実験室での無線タグとアンテナ及びセンサによる状態検知の研究

実験室での無線タグとアンテナ及びセンサによる状態検知の研究.

- これは凄いですね.自分の行動や状態を知ることで自分を改善できますね.他人を見守ることにも活用できますね.

無線タグの研究は,既に多くの組織から問い合わせを頂いていて,そのうちの一つと共同研究を進めています.2つ目は,家電認識の研究です.インテリジェントタップと呼ばれるセンサを搭載したコンセントタップを使い,接続されている家電の波形を識別,抽出して家電の種類を認識することができます.提案されているプロトコルは生活家電などの既存機器しか認識できませんでしたが,この研究では情報家電などの非対応機器への拡張を提案しています.他にもデータサイエンスに関する多様な研究をしています.

実験室での無線タグとアンテナ及びセンサによる状態検知の研究

インテリジェントタップによる家電認識と赤外線による家電制御を実現.

- 家庭や職場で自分が利用している家電の全てを把握できるととても良いですね.沼尾先生の研究は未来の社会を彷彿とさせます.今回は研究の紹介ありがとうございました.

日本アイ・ビー・エムの東京基礎研究所では人工知能の研究を率いた

日本アイ・ビー・エムの東京基礎研究所では人工知能の研究を率いた.

沼尾雅之 知能情報研究室 公式ウェブサイト


田村 元紀 - Motonori TAMURA

田村 元紀
発行人
新日本製鐵株式会社を経て,文部科学省,東北大学,東京工業大学,東京農工大学にて産学官連携に関する研究を推進後,電気通信大学に着任.産学官連携センター センター長 産学官連携支援部門長 教授.プログラムマネージャ(講座責任者).博士(工学)東京大学.技術士(金属部門).

清洲 正勝 - Masakatsu KIYOSU

清洲 正勝
編集者
USEN,SMCを経て,情報通信に関する計画,研究,設計,開発,制作,構築,試験,運用,分析,評価などを技術的側面から行うテクノロジを設立.産学官連携センター 特任助教.人工知能先端研究センター 客員研究員.プログラムフェロー(講座研究者).一般財団法人インターネット協会インターネット利用アドバイザー.情報処理学会,人工知能学会正会員.